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金属の疲労破壊に起因する事故を防ぐ

日本産業界の安心、安全を支える物材機構50年にわたる金属疲労、クリープ試験の成果

2020.01.20掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2020.01 / DOI : 10.1080/14686996.2019.1680574

物質・材料研究機構(物材機構、NIMS)は、日本で生産される各種金属構造材料の応力下での寿命を評価するために、過去半世紀にわたって、それらの長時間にわたる疲労およびクリープ試験をおこなってきた。
金属材料は繰り返して応力にさらされると疲労破壊を起こし、また、高温で一定応力を加え続けられるとクリープ変形を起こし、破壊へとつながることは良く知られる。1985年の御巣鷹山への日航機墜落事故、1994年の韓国聖水大橋崩落事故、1998年のドイツ高速列車ICEの車輪破壊事故、2002年の中華航空機空中分解事故といったいずれも多数の犠牲を伴う事故、最近では2007年のエキスポランド・ジェットコースター横転(車輪破損)事故など、いずれも金属の疲労破壊によるものである。このような疲労破壊事故を防ぐためには、それら材料の寿命を評価し、適切な検査時期の設定、材料の交換が行われなくてはならない。物材機構の疲労およびクリープ試験のデータはそれを支える重要な役割を果たしている。

Science and Technology of Advanced Materialsに発表された、物材機構、古谷佳之らによるレビュー論文、Catalog of NIMS fatigue data sheets および、澤田浩太らによるレビュー論文 Catalog of NIMS creep data sheets で、それぞれ得られた主要な成果を紹介している。

1966年、物材機構の前身、金属材料技術研究所は、耐熱鋼および合金が高温下、10万時間(約11.4年)で破断するに要する応力を決定するという目的で、クリープデータシートプロジェクト(Creep data sheets)を立ち上げた。このプロジェクトで得られるクリープ破壊強度のデータは、 当初、発電所のボイラー、圧力配管等、各部材に用いられる金属材料の許容応力を決めるために必要とされたが、近年は、それら金属材料がクリープ破壊を起こすまでの期間を評価するために用いられるようになっている。 60のクリープデータシートがあり、0から59までの番号が付ついていて、改定に応じてA(first revised edition)、B(second revised edition)といった記号が付されている。
その10年後となる1978年から、NIMSは構造材料の疲労特性データ・シート(Fatigue data sheets)の発行を始めている。この疲労特性データ・シートは、自動車や飛行機も含む種々の産業分野で用いられる日本製の金属構造材料全般の巨大な疲労特性データベースとなっていて、鋼、アルミニウム合金、チタン合金等の室温または高温での高サイクル、低サイクル、ギガサイクル疲労試験の結果を網羅している。また溶接継手部の疲労特性もカバーしている。実際、疲労特性データ・シートは構造材料の疲労特性の巨大なデータベースとなっていて、現在、126の疲労特性データ・シートがあり、なお増加中である。

金属の疲労は、応力を受けている物体に、初めに微小なクラックが発生し,繰り返し応力を受けることにより割れ目が伝播、拡大してゆく機構による。疲労試験は、室温、ないし高温下で、金属試料にサイクルで数える繰り返し負荷を加え、クラックが伝播、拡大してゆくのにどの程度多くのサイクルが必要かを測るものである。基本的な疲労特性を測る疲労試験は、107から1010サイクル行い、数年の期間を要する。
NIMSクリープデータによると材料の長時間クリープ強度特性は材料の種類に強く依存する。 材料は、温度が変わった時、材料の化学組成、少量添加元素の量、結晶粒径に依存して異なる反応を示し、材料の種類に応じたクリープ破断データを評価するには解析手法の選定も必要になる。火力発電所で一般的に使われているフェライト耐熱鋼は本質的な長時間クリープ強度(基底クリープ強度と呼ぶ)を有しているが、このクリープ強度は、少量溶質成分の添加量と、固溶体強化量に依存している。
疲労限度は高サイクル疲労により決められるが、この疲労限度は主に金属の抗張力と硬度に影響される。興味深いことに、ある種の金属では、室温であるかぎり応力を加えても、信じられないほどの長時間クラックの発生が無いが、その同じ金属も高温下では同じ応力で結局クラックが発生することをNIMSの研究者たちは見いだしている。

現時点までは、NIMSで開発,蓄積してきたクリープおよび疲労データ・シートは、"MatNavi"から閲覧でき、主に産業界で用いられてきている。NIMSは、2020年の中頃までにはこのデータシートを“Materials Data Repository (MDR)”へ移行、アクセシビリティーを改善し、今後、学術分野からの利用も促進したい、としている。

図の説明:内圧クリープ試験により破断した発電所で用いられるパイプ試料

著者Yoshiyuki Furuya, Hideaki Nishikawa, Hisashi Hirukawa, Nobuo Nagashima & Etsuo Takeuchi
本誌リンクhttp://doi.org/10.1080/14686996.2019.1680574
引用 Sci. Technol. Adv. Mater.20(2019)1055.
著者 Kota Sawada, Kazuhiro Kimura, Fujio Abe, Yasushi Taniuchi, Kaoru Sekido, Takehiro Nojima, Toshio Ohba, Hideaki Kushima, Hideko Miyazaki, Hiromichi Hongo & Takashi Watanabe
本誌リンク https://doi.org/10.1080/14686996.2019.1697616
引用 Sci. Technol. Adv. Mater. 20 (2019)1131.
2020.01.20掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2020.01 / DOI : 10.1080/14686996.2019.1680574注目の論文一覧はこちら