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銀、金、銅のナノワイヤー、合成法と機械的性質のモデリング

拡がる金属ナノワイヤーの応用:透明導電性膜から医療分野まで

2019.03.29掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2019.03.22 / DOI : 10.1080/14686996.2019.1585145

銀、金、銅のナノワイヤーはナノテクノロジーに基づく次世代デバイスの開発において、中心的な役割を果たすことが期待されている。例えば、これらの金属ナノワイヤーを用いた透明導電性フィルムは高い透明性、導電性、柔軟性、伸縮性を示し、ITOフィルムよりはるかに低いコスト性からITOフィルムを代替できることが示されている。また、金ナノワイヤーを電極としたバッテリーが画期的に超寿命を持つことが示され、PC、スマホ、電気自動車の充電に劇的な進化をもたらすと期待されている。しかし、これらの金属ナノワイヤーを産業的に生産してゆくためには、その合成法を今後改良する必要がある。一方、ナノ材料は、そのサイズが量子領域に近づくないしは入った時、対応するバルク材料とは異なる電子的・機械的性質を示すが、その理解は十分とは言えず、実用化にあたってはさらなる解明が必要となってくる。

Science and Technology of Advanced Materialsに、マレーシア、Universiti Malaysia PahangのNurul Akmal Che Lahおよび英国、University of OxfordのSonia Triguerosの発表したレビュー論文 Synthesis and modeling of the mechanical properties of Ag, Au and Cu nanowires は分子エレクトロニクスのための銀、金、銅ナノワイヤーの合成法、機械的性質の解析を紹介している。2章で合成法と核形成、ヘテロ構造成長を、3章で機械的性質の評価法を、4章で原子論的シミュレーションや連続体モデルを用いたナノワイヤーの性質のモデリングとナノ構造におけるサイズ効果を議論している。

分子エレクトロニクスでは、単一分子ないしはナノスケールの分子集合体を裸眼では当然見ることのできない極小の電子素子を構成するのに用いる。例えば、分子ワイヤーは単一の金属原子一次元鎖であり、電流を流すことができる。分子エレクトロニクス素子には、記憶媒体から触媒、医療処置といった広汎な応用が考えられている。銀、金、銅、ニッケルといった貨幣金属群は特徴ある物理的性質を持っていることから、そのナノワイヤーに特別の注目が集まっている。
これらの金属ナノワイヤーの合成には、水/ソルボ熱合成法が多く用いられている。金属塩を、界面活性剤を加えた水ないしは適当な溶媒中で還元し、ナノワイヤーを成長させる。界面活性剤はナノワイヤーを分散させるだけでなく、その形状の制御にも寄与する。例えば、銀ナノワイヤーのパイオニアワークの場合、金属塩にAgNO3を用い、溶媒はエチレングリコル、界面活性剤にポリビニルピロリドンを用いている。他にはテンプレートを用いた電気化学的合成法、物理蒸着法などがあるが、前者では面倒なプロセス後処理が必要で、折り畳みできる柔らかい電子デバイスを作成するプラスチック基板には不適当であり、後者はまだ実験室レベルでの合成にとどまっている。これらに比べて、技術的な容易さ、低コストといった面から、水/ソルボ熱合成法が産業応用には最も適している。

ナノワイヤーの機械的性質を測定するための実験技術の最近の進歩は目覚ましい。高精度でミクロな機械的性質を測定するための装置として、ナノインデンテーションやナノベンディングなどがあり、これらは電子顕微鏡の中にセットされ、インデンテーションやベンディングによる結晶転移や双晶の発生、動きを同時その場観測することができる。また、AFM、走査型フォース顕微鏡とナノフォーカスXRDを組み合わせ、応力ー歪み相関と結晶構造の変化をその場観察することも行われている。これらの手法により、ナノワイヤーの構造及び表面応力、欠陥生成がナノワイヤーの機械的性質にどのように影響しているかを明らかにしている。また、ナノワイヤーの電子的性質や化学組成を原子毎に明らかにすることも行われている。
しかしながら、ナノワイヤー合成法は、ナノワイヤーのサイズ、形状が揃い、高収率であることが求められ、しかも低価格性、環境適合性も求められる。これらについてはさらなる改良が求められている。そして、銀、金、銅ナノワイヤーの機械的性質を改善、最適化し、その持つポテンシャルを最大限に引き出すためにはまだ多くの研究が欠かせない、と著者たちは指摘している。

図の説明:HRTEMで、その場、時系列観察した金の原子サイズワイヤー形成。金は非常に展性に富み、1原子ワイヤーにまで引き延ばせ(パネル e-k)、切断するまで伸びる(パネル l)。イメージ内黒点が個々の金原子に対応。

著者Nurul Akmal Che Lah and Sonia Trigueros
本誌リンクhttp://dx.doi.org/10.1080/14686996.2019.1585145
引用 Sci. Technol. Adv. Mater.20(2019)225.
2019.03.29掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2019.03.22 / DOI : 10.1080/14686996.2019.1585145注目の論文一覧はこちら