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熱電素子開発の新潮流

IoT時代を支えるエネルギー供給のひとつの形を拓く

2018.11.20掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2018.11.14 / DOI : 10.1080/14686996.2018.1530938

熱を電気に変える熱電素子開発の新しいターゲットとして、人々の生活に密着した分野が拓かれつつあり、それに伴い熱電材料も従来の無機材料に加えて、室温近傍で利用できる有機伝導性材料も有力な候補となりつつある。

熱電素子開発の従来のターゲットは、主に産業分野で一次利用されたあと排出される大量の熱を電気に変換するということに置かれてきた。例えば、100万kWの原子力発電所の総熱出力は300万kWで、200万kWは廃熱となっている。また、車のエンジンの排ガスの温度は1000°Cを超えている。こういった熱を電気に変換できればエネルギー供給の主役にはなれなくとも補完役には十分なり得る。素子材料としては主にある程度の耐熱性のあるセラミックス材料が研究されてきた。しかし、素子1個あたりのエネルギー効率は高くなく、実用は限られた特殊な分野にとどまっていた。

IoT(物のインターネット)の時代を迎えつつある今、熱電素子は新しい利用分野を拓こうとしている。IoTでは多くのセンサーを使うが、その電源を電池ではなく、熱電素子にすれば、充電、交換、廃棄などの手間がなくなる。また、室温近傍で動作し、しかも柔軟性があれば、着用型の素子として利用できる。このような目的に対応する3種の材料として、有機材料、無機・有機ハイブリッド材料、ミクロやフレキシブルなデバイスに活用した無機材料が研究されつつある。

Science and Technology of Advanced Materialsにスウェーデン、リンコピン大学のXavier Crispinらと物材機構の森孝雄らの発表したレビュー論文 Thermoelectric materials and applications for energy harvesting power generation は、これら3つの材料を用いた熱電素子の最新の研究開発状況を紹介している。

有機熱電材料は電気伝導性のある半導体ポリマーを用いている。熱電材料はゼーベック係数と電気伝導性が高く、熱伝導性が低いことが求められるが、前2者と後2者はそれぞれ相反する要件である。有機ポリマーはその構造上、熱伝導性が無機材料に比べて低いという利点がある。また、軽い、値段が安いという利点に加え、硬い無機材料には無い柔軟性があり、しかも加工が容易で、印刷法が適用でき、3Dプリンターでどのような形にも製作できる。一方、有機熱電材料の熱電効率は無機熱電材料に比べて低い。この低い熱電効率を改善するために、ポリマーを構成する有機分子の組成、長さ、配置などを最適化し、材料の結晶性、電気伝導性を向上させる努力が行われている。

有機と無機材料を混ぜ、両者の利点を生かしたハイブリッド材料を作る試みもある。伝導性ポリマーに無機材料の粒子を分散させる方法や、逆に、無機材料に有機分子をインターカレートする方法、例えば、TiS2に有機分子をインターカレートし、柔軟性を付加するとともに、熱伝導性を下げ、全体として熱電特性を向上させる試みである。

熱電特性は良いが、柔軟性のない無機材料について、有機基板フィルム上に薄膜熱電素子を作成することで柔軟性を持たせることも試みられている。例えば、Cu薄膜電極をプリントしたポリイミドフィルムで、厚さ 1.5 µmのクロメル(90% Ni + 10% Cr)と厚さ 2.5 µmのコンスタンタン(55 % Cu + 45 % Ni)の積層膜を挟み、柔軟性熱電素子が作られている。この素子は、温度差 22.7-24.0 Kがあれば、2.40 - 3.72 µWの出力がある。また、無機材料系の小型熱電発電素子は、環境や建設物のモニタリング、動物の追跡、保安や警備、医療処置などに使われる機器の電源として使われるようになる可能性があり、すでに一部、商業製品に組み込まれたものもある。実際、セイコー社は体温を利用した熱電発電素子を電源とした時計を商業化している。

著者たちは、熱電素子は多くの分野で、従来使われてきた電池に置き換わる可能性があり、今後のIoTを支える無数のセンサーの動作電源として期待が大きく、そのためには熱電材料・デバイスの改良のために、まだ多くの克服すべき課題が残っている、としている。本レビューは、そうしたエネルギーハーベスティングの実現へ向けた材料とデバイス開発や戦略の最前線を系統的に網羅したものであり、研究に広く活用されることが期待される。

図の説明:手袋に埋め込まれた体温を熱源として発電する熱電発電素子(Copyright : Song Yun Cho, Korea Research Institute of Chemical Technology)

著者Ioannis Petsagkourakis, Klas Tybrandt, Xavier Crispin, Isao Ohkubo, Norifusa Satoh & Takao Mori
本誌リンクhttp://dx.doi.org/10.1080/14686996.2018.1530938
引用 Sci. Technol. Adv. Mater.19(2018)836.
2018.11.20掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2018.11.14 / DOI : 10.1080/14686996.2018.1530938注目の論文一覧はこちら