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癌ナノ治療研究の最前線

抗がん剤をナノキャリアーに載せ、がんをピンポイント攻撃

2018.11.16掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2018.10.26 / DOI : 10.1080/14686996.2018.1528850

抗がん剤をナノキャリアーに載せ、がん部位に届け、がんに特有の環境に応答してそれらをピンポイントで放出、がんを攻撃するというドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究が急速に進展している。このDDSを応用することで、イメージング剤へ応用でき、がんの早期発見や診断にも利用されつつある。

がん治療には、早期発見と外科的処置が有効で、他にも化学療法、放射線療法、免疫療法がある。本年度のノーベル生理学賞はこの免疫療法に関わるもので、今後大きく進展することが期待されている。一方、薬物による化学療法は、何よりも重篤な副作用があり、患者はこの副作用に苦しんできた。副作用を軽減するために、カテーテルを使用し、がん部位に直接薬剤を投与することも行われている。カテーテルの代わりにナノキャリアーに薬剤、ないしイメージング剤を載せ、がん部位に届け、がんに特有の環境により、がん組織内でのみそれらを放出するというDDSを開発することで、正常細胞への悪影響を減らすことが可能になる。同様のシステムでイメージング剤をがん部位に届けることで、がんの増感イメージングも可能になる。

Science and Technology of Advanced Materialsに中国、厦門大学のGang Liuらの発表したレビュー論文 Functional biomimetic nanoparticles for drug delivery and theranostic applications in cancer treatment は、がん特有の条件である酸性度、酸化還元特性、酵素活性を利用して、がん部位のみを攻撃するナノ材料の最新の研究開発状況を紹介している。

3種の刺激の中で、pH刺激に対応するように設計されたDDSが広く用いられている。酸性度は臓器や組織により異なった値をとるが、がん組織は、一般に周囲の健康な組織よりも酸性になっている。これを利用して、有機、無機、ないしハイブリッドのナノ材料からなる抗がん剤送達ナノキャリアーが、がんの酸性環境の刺激に反応して、内包する抗がん剤を放出するよう設計を行う。例えば、酸感受性の高いポリマーに、蛍光体を組み合わせた抗がん剤であるドクソルビシンを担持することが研究されている。ドクソルビシン担持ナノキャリアーがターゲットのがんに到達し、がん細胞に取り込まれると、ポリマーはがんの酸性環境に晒されて、構造変化が起き、担持するドクソルビシンを放出する。これにより、周囲の正常組織への細胞毒性を示すことなく、がん細胞を直接攻撃することができ、またがん組織のイメージングも可能になる。

がんをターゲットとしたナノキャリアーに、還元ポテンシャル刺激に対応するよう設計されたアプローチもある。がん組織と健康な組織では異なる還元ポテンシャルを持ち、また細胞外と細胞内とでも異なる。人体のメタボリズムにとって重要な役割を果たすグルタチオンは、低分子量の生体内還元剤で、がん細胞内濃度は2 - 10 mMとなり、細胞外の1000倍にもなる。この還元反応を利用するのに、ジスルフィド結合、2セレン(Se-Se)結合、炭素ーセレン(C-Se)結合などがあり、これをキャリアーに組み込み、安定化させ、薬物放出を抑制しておく。細胞内のグルタチオンで還元されて、結合が切断されるに伴いキャリアーから薬剤が急速に放出される仕組みである。この種のナノキャリアーは血液中では優れた安定性を示し、がん細胞内の還元的環境には迅速に応答する。この仕組みを有するいくつかのナノキャリアーは、既にアメリカ食品医薬品局(FDA)の認可を受けている。

がん組織内で異常に増加する加水分解酵素、酸化還元酵素およびその他の酵素に応答するナノキャリアーもある。この内、プロテアーゼ、リパーゼ、グリコシダーゼといった、加水分解酵素がもっとも広く用いられている。ナノキャリアーは、このようながん細胞に特異的な酵素で分解され、担持している薬剤をがん細胞内に放出するように設計されている。いくつかのケースでは、酵素によるナノキャリアーの分解は非常に効率が良いため、薬剤の投与量を減らしても、薬効が認められている。

このようにがん特有の環境を利用して、ナノキャリアーに担持した薬剤を放出し、がんをピンポイントで攻撃、治療するという方法は、非常に期待されているが、一方で、実用化にはまだ多くの研究が必要である。例えば、pH刺激に対応するキャリアーについては、薬剤担持量や安定度、また生分解性に関する改善が必要である。また、酵素刺激に応答するナノキャリアーの場合では、毒性の検証が必要である。

著者たちは「がん治療を目指した刺激に応答するナノ材料のポテンシャルは十分高く、期待できるもので、今後、より効率の高く、副作用の少ない、多くのナノ材料プラットフォームを開発してゆく努力が今後も必要である」と結論づけている。

図の説明:がん治療用の薬剤、ないしはイメージング剤をナノ材料に担持し、がん部位に届け、がん特有の環境に応答して、これらの薬剤を放出、がん組織を攻撃する、ないしはイメージングを可能にする、という研究が行われている。図は、プロテアーゼ感受性を持つナノ材料によるがん部位攻撃、ないしはイメージングを模式的に示す。

著者Lei Li, Junqing Wang, Hangru Kong, Yun Zeng & Gang Liu
本誌リンクhttp://dx.doi.org/10.1080/14686996.2018.1528850
引用 Sci. Technol. Adv. Mater.19(2018)771.
2018.11.16掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2018.10.26 / DOI : 10.1080/14686996.2018.1528850注目の論文一覧はこちら