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細胞内に生理活性分子を輸送する細胞親和型多機能ポリマーナノ粒子

Cytocompatible and multifunctional polymeric nanoparticles for transportation of bioactive molecules into and within cells

2016.07.10掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2016.07.06 / DOI : 10.1080/14686996.2016.1190257

ポリマーナノ粒子は,その化学構造の多様性から,様々な分野で応用されている.中でも,イメージング技術の進歩に伴い,医療,生化学,あるいは細胞工学などいわゆるバイオ関連分野における利用が進んできている.また一方で半導体ナノ粒子である量子ドットや,磁性ナノ粒子との複合化は,ポリマーナノ粒子の機能をさらに高めることとなり,高度な応用がなされるようになってきた.

Science and Technology of Advanced MaterialsのNanomedicine Molecular Science特集に発表された石原一彦(東京大学)らによるレビュー論文 Cytocompatible and multifunctional polymeric nanoparticles for transportation of bioactive molecules into and within cell」は,細胞の機能に影響を与えない性質を基本として,さらに高次の機能を有するポリマーナノ粒子に関連する研究を幅広く紹介している.特に,細胞親和型ポリマーとして,細胞膜を構成するリン脂質分子の極性基(ホスホリルコリン基)構造に着目して設計された2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を一成分とするポリマーを取り上げている.MPCポリマーは,基材表面を修飾すると人工細胞膜表面を構築することができ,生体反応を抑制できることから医療器具として世界的に応用されてきているバイオマテリアルである.本レビューで紹介されているようなナノメートルサイズの粒子においても,MPCポリマーによる表面処理は有効であり,タンパク質や細胞などとの相互作用が極めて弱いために,通常は生体反応により細胞毒性が生じることが問題となる長時間のイメージングにも利用することができる.著者らの研究として紹介されている例では,表面を被覆しているMPCポリマーに機能を持たせることにより,選択的な細胞取り込みやバイオ分子の認識,細胞内への物質輸送も可能となることが示されている.さらに,これらの特徴を利用して,ナノ粒子内に量子ドットを複合化した蛍光イメージングを利用した細胞内への取り込み過程や細胞内滞在性に関して,ナノ粒子表面に結合するペプチド分子の化学構造,組成などについて詳細にも紹介されている.このナノ粒子が細胞内に長期間滞在し,細胞分裂により細胞間に分配されていく様子は,世界でも例のない事象であり興味深い.

細胞機能の解明や応用は,山中伸弥博士のiPS細胞の製造法の発見,大隈良典教授の細胞のオートファジーの解明など,日本の独自の研究がノーベル賞受賞という形で認められてきている分野である.ここで紹介されているような新しい細胞イメージング材料技術が,さらにこの分野を進歩させると期待される.

図1. 量子ドットを内包したポリマーナノ粒子表面を,細胞親和型のMPCポリマーで被覆し,さらに細胞膜透過ペプチドを固定化した.

図2. 量子ドット内包ポリマーナノ粒子を細胞内に導入し,9時間後の蛍光イメージング像.

著者Kazuhiko Ishihara, Weixin Chen, Yihua Liu, Yuriko Tsukamoto, Yuuki Inoue
本誌リンクhttp://dx.doi.org/10.1080/14686996.2016.1190257
引用 Sci. Technol. Adv. Mater.17(2016)300.
2016.07.10掲載REVIEW ARTICLEPublished : 2016.07.06 / DOI : 10.1080/14686996.2016.1190257注目の論文一覧はこちら