注目の論文

日本の超伝導の新物質探索のエキスパート 4年間にわたる約1000の物質探索結果を初公開

Exploration of new superconductors and functional materials, and fabrication of superconducting tapes and wires of iron pnictides

2015.05.14掲載INVITED REVIEWPublished : 2015.05.08 / DOI : 10.1088/1468-6996/16/3/033503

基礎物理学上の発見とデバイス応用への可能性を探る上で,液体ヘリウムよりもっと現実的な温度で超電導となる物質の需要が高まっています.今回のレビュー論文(Sci. Technol. Adv. Mater. Vol. 16 (2015) p. 033503)で,細野秀雄らは,1,000種に及ぶ物質を対象とした,4年にわたる広範な共同研究の結果を報告しています.新たに発見された超電導体とともに,超電導が認められなかった約700種の物質のリストも収録されています.

「これはおそらく,検討したが超伝導を示さなかった物質のリストを含む初の論文です.超電導の研究者にとって貴重なデータなはずです」と,東京工業大学の研究者であり,今回のレビュー論文の筆頭著者である細野秀雄教授は述べています.

既存の理論が高温超電導体の特定に成功したことは未だありません.物質に秘められた広大な可能性は眠ったままになっています.「われわれは,他の研究者が費やした時間と努力をむだにしないと決めました.そして本論文に,超電導に至らなかったサンプルの結果も含めたのです」と,細野教授は付け加えます.細野教授は,2006年の鉄系超電導体発見へとつながった研究も主導しています.

また,超電導プロジェクトとしてユニークな点として,専門分野の構成で,凝集系物理学よりも固体化学に重きが置かれたことがあります.研究チームには,東京工業大学,国際超電導産業技術研究センター,物質・材料研究機構,京都大学,広島大学,および岡山大学の研究者らが参加しました.

これまで,類似する研究プロジェクトでは超電導特性の探索に焦点が当てられ,超伝導を示さなかった物質に関する情報は公開されていません..昨今では新しい超電導物質に対する資金提供は減少の一途をたどっています.今回,細野教授らが柔軟なアプローチを採用したことで,化成品の中間体として重要なアンモニアの高効率な合成触媒,両極性の酸化物薄膜トランジスタ,および金属における強誘電性など,新しい材料機能に関する貴重な発見が得られました.

鉄系超伝導体の初期のゴールドラッシュ
  2006-7年の鉄とニッケル系超伝導体の発見を経て,2008年1月に鉄系高温超伝導体が報告された.その以降の半年間は正に1か月が1年に相当するドッグイヤーであった.すなわち,最高のTcが26Kから55Kに上昇し,主な母物質,超伝導を発現させるための新しい電子ドーピング法やエピタキシャル薄膜が相次いて報告された.ここで,横軸の日付は原稿が論文誌の編集部の届いた日,またはプレプリントサーバーに貼られた日を示している.©2015 Hideo Hosono.

背景

超電導

温度が下がると金属の導電性が上がります.これは,温度低下に伴う原子振動の低下によって抵抗が減少するためです.大半の金属では,特定の温度で抵抗が最小になりますが,超電導体では「臨界温度」で抵抗がゼロになります.臨界温度よりも低い温度では,超電導物質の導電性は無限となり,すべての磁力線が排除されます.

超電導の潜在的用途は,高速デジタル回路やMRI用の強力な電磁石から,次世代コンピューティング用の量子ビットまで多岐にわたります.しかし,初期の超電導観察では液体ヘリウムを用いて極低温まで冷却する必要があったため,超電導を用いた新技術の開発は大きく制限されていました.

高温超電導

1986年,ゲオルグ・ベドノルツとアレクサンダー・ミュラーは,特定の銅酸化物がそれまでよりもかなり高い転移温度で超電導を示すことを発見し,後にノーベル賞を受賞しました.2006年,細野教授のグループにより,LaFePOという鉄の化合物で超電導が初めて観測されたことを受けて,鉄系超電導体の研究が始まりました.鉄原子は大きな磁気モーメントを有しています.磁性と超電導は共存しないと考えられていたため,鉄系超電導は驚くべき発見でした.

超電導理論

ジョン・バーディーン,レオン・クーパー,ジョン・ロバート・シュリーファーの3人によって提唱されたBCS理論は,今もなお超電導のメカニズムを説明する主要な理論です.BCS理論は,電子がペア(対)となってボソン化することを説明しています.

電子などのフェルミ粒子は,2個の粒子が同じ状態になることができないため,それぞれを区別するスピンまたは軌道といった特性が必要です.これによりフェルミ斥力などの作用が生じます.一方,ボース粒子は,いくつもの粒子が同一の状態をとることができるため,クーパー対にボース粒子の特性を導入することで,超電導特性が生じます.本レビュー論文でまとめられた研究により,超電導体の輸送挙動(核周辺のdおよびp軌道における電子の相互作用)に関するいくつかの説明が提示されています.

BCS理論は超電導を解明した理論ではあるものの,物質が超電導に転移する温度の定量的予測は成されていません.このため,高温超電導体の探索はきわめて難しくなります.

プロジェクトの詳細

提案プロジェクトの標題は「新超電導および関連機能物質の探索と産業用超電導線材の応用」です.2009年1月,同プロジェクトは,総合科学技術・イノベーション会議(CSTP)によって立ち上げられた,日本学術振興会(JSPS)の最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)で採択されました.およそ800件に及ぶ応募の中から,採択されたのはわずか30課題です.

2010年のプロジェクト立ち上げ時に,細野教授は以下の目標を設定しました.

  1. 超電導転移温度が77K(液体窒素の沸点であり,重要な温度)以上の新超電導物質の発見
  2. 高性能な新超電導物質の実現
  3. 際立った機能を有する関連物質の実現
  4. 低温で105A/cm2以上の臨界電流密度(Jc)を示す超電導物質の線材化
  5. 超電導クーパー対のトンネリングを可能にするジョセフソン接合,および同様のトンネル効果を有し,高感度磁力計として使用可能な超電導量子干渉計(SQUID)の作製

超電導転移温度が77K以上の新規物質の発見を除き,本プロジェクトは目的を達成しています.

研究チームの専門分野は,超電導研究者の一般的な専門分野である凝縮系物理学よりも固体化学に重きが置かれています.特に超電導分野での成功にこだわることなく,興味深い物質特性を解明する研究につながるとの確信を持って,細野教授はこのようなチームを構成しました.

本研究によって超電導に関する洞察が得られたと同時に,鉄を主体とした触媒を使用するハーバー法の考案から100年の時を経て,アンモニア合成触媒に大きな進展がもたらされました.また,近年新型のディスプレイの駆動に実用化されたIGZO薄膜トランジスタ(細野教授らの2003/4年の発明)のように酸化物のTFTはn型動作を示すものだけでしたが,本プロジェクトではp型の動作をする両極性酸化物TFTを初めて実現しました.さらにおよび金属伝導を示し,且つ強誘電性を占めす物質が初めて発見されました.

著者細野秀雄,田辺圭一,室町英治,陰山洋,山中昭司,熊倉浩明,野原実,平松 秀典,藤津悟
本誌リンクhttp://dx.doi.org/10.1088/1468-6996/16/3/033503
引用 Sci. Technol. Adv. Mater.16(2015)033503.
2015.05.14掲載INVITED REVIEWPublished : 2015.05.08 / DOI : 10.1088/1468-6996/16/3/033503注目の論文一覧はこちら