物質材料研究アウトルック
発行者:物質・材料研究機構
発行日:2006年版 2006年11月20日 問い合わせ: 企画調査室
第3部 物質・材料研究における今後の研究動向

第3章 ナノテクノロジーを使った情報通信材料
  2.ナノ構造制御によるセラミックス光源素子・材料
    (3)広波長域波長変換素子材料
栗村直、北村健二(光材料センター, NIMS)
1 .はじめに

 非線形光学を用いた擬似位相整合波長変換デバイ スは、波長の固定されたレーザー光源から任意波長の光を得る小型高効率なデバイスとして広く認知されている。中赤外光による環境計測(ガス/粒子モニタリング)、近赤外光による光通信、可視光による情報家電/バイオ計測、紫外光による眼科治療/微細リソグラフィなど広範な分野から期待されている理想的な光源である。ここでは擬似位相整合波長変換デバイスについてその原理、現状を紹介したい。光のような高い周波数帯では材料中のイオンの動きが光電場に追随できないため、電子の応答が特性をきめる。このとき入射光の電場E(ω)によって振動する電子分極P は、入射電場の弱い場合には、

P =ε0χ(1)E (1)

と線形の関係で表される。ε0 は真空中の誘電率、χ(1)は1 次の電気感受率である。これに対し、入射光の電場強度が大きくなると分極の非線形振動部が無視できなくなり、この時発生する非線形電子分極を含めたP は、

P =ε0χ(1)E +ε0χ(2)EE +ε0χ(3)EEE +… (2)

と表される。右辺第2 項以降が非線形振動部であり、ここから派生する第二高調波発生(Second HarmonicGeneration: SHG)、和周波発生、差周波発生などを非線形光学効果と呼ぶ。この第2 項以下の出現は光の波長変換を可能にし、線形光学とは質的に異なった現象を生み出す。

 分極反転波長変換デバイス(図1)ではχ(2)に起因する非線形光学定数d の符号を分極反転と共に反転させることで波長変換効率を劇的に向上させる。一般に強誘電体では電子ポテンシャルの非対称性が大きいため、χ(2)も大きくなる傾向にある。強誘電体内で等しい自発分極をもつ領域を分域と呼んでいるが、これらのうち互いに自発分極が反平行であるような分域は通常の線形光学特性に影響を与えない。一方2 次の非線形光学定数d は3 階のテンソルであり、自発分極の反転と共にその符号を変える。このため、自発分極を空間的に反転すれば、分域間で定数の符号を反転(± d)することが可能である。分極反転を利用した波長変換デバイスは、擬似位相整合(Quasi-Phase Matching: QPM)波長変換デバイスと呼ばれている。リソグラフィによるパターン電極でニオブ酸リチウム(LiNbO3: LN)やタンタル酸リチウム(LiTaO3: LT)の自発分極を空間的に周期反転しているが、位相整合させる波長をパターン周期で設計できるため1)材料の全透明領域を使用することができる。以下にQPM の原理を説明する。

 入射光1 波(基本波)、出射光1 波(第二高調波)のSHG の場合を考える。通常の材料では屈折率に波長分散があるため、基本波の速度とSH 波の速度が一致しない。これにより結晶内の合成SH 波強度は伝播距離に対して周期関数になる。これに対し、非線形結晶内でd つまり自発分極Ps をコンストラクション長lc ごとに反転させると(周期Λ =2lc)、第二高調波振幅は著しく大きくなる(図2)。分極反転周期Λは基本波の屈折率nF とSH 波の屈折率nSH で決まり、Λ =2lc= λF/2(nSH-nF)と計算できる。光パラメトリック発生(OPO)などの長波長への波長変換ではこの周期により発生させる波長を選択することができ波長可変光源を実現できる。



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