物質材料研究アウトルック
発行者:物質・材料研究機構
発行日:2006年版 2006年11月20日 問い合わせ: 企画調査室
第3部 物質・材料研究における今後の研究動向

第1章 物質・材料研究開発のためのナノテクノロジー
  1.ナノテクノロジー計測・分析技術
   (4) 3次元アトムプローブ
大久保忠勝、宝野和博(磁性材料センター, NIMS)
1 .はじめに

 3次元アトムプローブ(以下3DAP)は電界イオン顕微鏡(FIM)を母体として発達した分析手法で、1988年にOxford大学のCerezoらによって、従来のアトムプローブ1)に位置敏感型検出器を導入することによって開発された(Position-sensitiveatom probe, PoSAP)2)。図1に示すように針状試料の先端 からパルス電圧によって個々に電界蒸発するイオンの飛行時間と位置測定を行い、イオンの質量電荷比と2 次元座標を決定する手法である。電界蒸発による原子のイオン化は常に試料の最表面から起こるので、2 次元マップを重ね合わせれば3次元の元素マップを構築することができる。飛行時間型質量分析であるので、元素の検出効率に質量依存性が無く、軽元素の定量分析が可能であること、投影型の顕微鏡であることからシンプルな構造でありながら、200万倍程度の倍率の元素マップをほぼ原子レベル大久保忠勝、宝野和博 磁性材料センター、物質・材料研究機構の分解能で得られることが特徴である。またTEMと異なり、3DAPで得られる元素マップは3次元試 料の2次元投影ではなく真の3次元マップであることから、金属材料中のナノ析出物や原子クラスターの解析に有効であり、3DAPはこれまで金属材料の強力なナノ組織解析法として使われてきた。最近は、商品化された3DAPが市販されるようになり、金属系の研究機関で究極的なナノ組織解析法として急速に普及しつつある。これまで3DAPは、針状試料表面に発生する高電界により試料が頻繁に破壊すること、導電性材料でなければ解析できないことなどの原理的制約のため、金属系材料の解析にしか応用されてこなかったが、近年、薄膜解析のための試料作成法の進歩やレーザーアシストによるイオン化法の導入により、データストレージや半導体産業でも導入され始めている。ここでは3DAPのあゆみと最近の技術動向を紹介する。



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