物質材料研究アウトルック
発行者:物質・材料研究機構
発行日:2005年版 2005年11月1日 問い合わせ: 企画調査室
第4部 物質・材料研究の今後の展望

第15章 新物質創製技術
      1.粒子ビーム応用技術
岸本 直樹 (ナノマテリアル研究所, NIMS), 三石 和貴 (超高圧電子顕微鏡ステーション, NIMS)
1) はじめに、世界の動向

 イオン、電子ビーム、中性原子などの粒子ビームを材料に照射することによりナノ構造を作製する技術が近年非常に進歩してきている。

 まずイオン注入・照射技術に言及する。ここ数年における世界的動向を定量化するために、当該分野において最も定評のある国際会議であるIBMM-14(Ion Beam Modification of Materials、2004年9月米国にて開催)における発表1)を分野毎にカウントした。総発表数343件のうち多い順に、第1位:イオン照射損傷(22.7%)、第2位:半導体応用(20.7%)、第3位:ナノ粒子・ナノ構造(16.6%)、第4位:プラズマイオン注入(16.3%)、第5位:生体応用(6.4%)、第6位:高エネルギーイオン(5.2%)、第7位:ビームリソグラフィーと続く。その他少数ながら、イオン固体相互作用(2.9%)、磁性応用(2.3%)などが報告されていた。第1位イオン照射損傷と第2位半導体応用は当該分野において長い歴史をもち、上位を占めることは驚くに当たらない。注目すべきはここ5年〜10年のうちに急速な発展を示した第3位ナノ粒子・ナノ構造である。この新興分野はイオン注入技術の持つ非平衡性、優れた制御性を活かした可能性に満ちた分野である。有力なプレイヤーとして、Oak Ridge 研、Venderbilt 大、Alabama M&A大(以上米国)、FOM(オランダ)、FZロッセンドルフ(ドイツ)、Padova 大(イタリア)、オーストラリア国立大(豪国)、NIMSなどが挙げられる。尚、第4位のプラズマイオン注入も新興の分野ではあるが、加工技術またはパーツ作製技術と位置づけられるべきで、本節が扱う新物質創製技術とは異なるのでこれ以上言及しない。

 近年注目すべき技術として、特にナノ構造創製に有利なイオン・電子誘起蒸着が挙げられる。試料近傍に有機金属ガスなどの原料ガスを導入し、粒子ビームを照射することでナノ構造を作製する手法は、イオンの透過能が低いことから自由度の高い3次元ナノ構造作製手法であり、直径2μm程度のワイングラスや、ナノベローズなどの構造が作製されている。この手法ではビーム径7nm程度の粒子線によって、最小サイズ100nm程度の構造が得られている。電子線誘起蒸着は、より細く収束することができる電子線を用いることでより微細な構造の作製を目指すもので、走査電子顕微鏡の中に原料ガスを導入する方法によって古くからさまざまな原料ガスに対して広く研究されている。7) 〜 10)この手法では1nm程度の電子線を用いて、10 nm程度のナノドットや、15nm程度の針状構造などが作製されている。最近ではオランダのDelft工科大学のグループが理論・実験の両面で精力的な研究を行っている。

 リソグラフィーは、ナノメーター素子を量産し得る、優れた技術であるが、電子線など従来の露光源は、透過・散乱、回折、空間電荷など様々な限界要因を抱えている。これに対し、準安定原子(He*、Ne*、Ar*)などの低速原子線には、透過の問題が存在せず、質量が大きいために波動としての回折限界が非常に小さいことや中性で空間電荷効果による発散がないことなどナノリソグラフィーの光源として理想的な性質を備えている。この特質に着目したBerggren等12)によって「原子線リソグラフィー」が、1995年に提案されて以来、米、独、豪で研究が行われてきた。レジストには、自己組織化単分子膜(SAM)、炭化水素あるいはシリコーンの重合膜、基板表面の終端処理層が使用されている。



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