物質材料研究アウトルック
発行者:物質・材料研究機構
発行日:2005年版 2005年11月1日 問い合わせ: 企画調査室
第4部 物質・材料研究の今後の展望

第10章 複合材料
香川 豊 (材料研究所 複合材料グループ, NIMS)
1) はじめに、 世界の動向

 複合材料の研究開発の歴史をたどってみると、ゴム、プラスチックス、金属、セラミックスのように使用温度が高くなるように発達してきた。この歴史の中で複合材料の研究開発の将来について材料特性という観点を中心に記述する。今までに、複合材料特性としては力学的性質を中心に研究が行われていた。これは、軽くて強い材料が、我々の日常生活で利用される航空機や乗り物などに要求され、それらの特性を満たす材料であったことによる。図1は代表的な金属材料、セラミックス材料、高分子材料および複合材料の比強度と比剛性の関係をプロットしたものである。複合材料では両者を兼ね備えた特性を持つことができる唯一の材料であるといっても差し支えない。

 複合材料の中で最も多く利用されている高分子系複合材料であるFRP(繊維強化プラスチックス)の繊維自体の特性はほぼ最高性能に達していると推定される。図2に炭素繊維の引張強度と引張弾性率の関係を示す。引張強度が7,000 MPa以上の高強度炭素繊維、引張弾性率が900 GPa以上の高剛性炭素繊維が存在している。しかし、実際に材料を使う立場において、実用的に応用範囲が広がる傾向とは逆に、ノウハウに頼らざるを得ない環境にもなっている。特に、界面の剥離や異種材料との接着構造及びその信頼性確保、表面での衝撃損傷や水分などの耐環境性の保障など、一見解決されているように考えられている問題が依然として残されている。

 金属系複合材料も大きな比弾性率を持ち、マトリックスに用いる金属材料の使用温度範囲を高くできる可能性を求めて多くの研究が行われたが、応用分野を見出すことが難しく、研究開発は積極的に行われていない。金属系複合材料は、低熱膨張率が金属材料固有では得られない材料として現在も残っている。セラミックス系複合材料では粒子分散やウイスカー分散のものが破壊靱性にして10 MPa m1/2 以上を達成できなかった。連続繊維を織物状にしたものを利用したセラミックス系複合材料では強度の向上を目指したものではなく、大きな破壊抵抗を持つ高温材料としての位置づけで研究開発が行われている。

 いずれの複合材料系も、その強化機構や機能発現機構を理解することは比較的容易であり、現状では生じた現象の90%以上は過去の知識を駆使すれば理解できる現状にある。さらに、巨視的な力学機能設計及び非力学機能設計に関しても既存の材料及び複合化指針の延長では新たな材料技術を構築するという側面からの期待は薄い。



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