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注目の論文

金の単一ナノロッドを用いたアマルガム形成による水銀のプラズモニック検出

水銀の環境汚染を容易、迅速に検出

2017.02.28掲載ARTICLEPublished : 2017.01.09 / DOI : 10.1080/14686996.2016.1258293

金と水銀がアマルガムを形成することは良く知られていて、例えば、アマゾン奥地の砂金掘りが砂金を精製して金塊とする過程で、今でもこの反応を用いているとされる。それは同時に水銀を環境中に放出してしまうことでもあり、深刻な環境汚染を引き起こしかねないし、また環境中に水銀が拡散してゆくことになる。この論文の著者達は、金の単一ナノロッド表面で水銀と金がアマルガムを形成し、そのために表面プラズモンの波長が変化することを逆に利用し、環境中に拡散した水銀汚染を検出、分析する手法を提案している。

水銀は強い生体毒性を持ち、水俣病に代表される公害病の原因物質である。すでに水、大気、土壌などに広く拡散されていて、言うまでもなく生分解されることは無く、環境および食物連鎖に残り続ける。食物連鎖の頂点にいる人間や捕食動物にとってこの水銀汚染は大きなリスクの一つである。環境中の微量(ナノモル(nM)からピコモル(pM))の水銀を正確に分析する手法はいくつかあり、ガスクロマトグラフィ-誘導結合プラ質量分光法(GC-ICP-MS)、原子蛍光分光法、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)、逆相高速クロマトグラフィー(RP-HPLC)などである。いずれも高い感度を持つ優れた方法であるが、一般に高価で、可搬性に乏しく、また試料中の水銀濃度を高めるための前処理の必要がある。このことから高感度であり、かつ廉価で、簡便な水銀分析法の開発が期待されている。

貴金属のナノ粒子は、その表面プラズモン共鳴に起因する光応答が敏感であることから、種々の有機/バイオ分子で表面修飾し水銀と相互作用させ、水銀の検出をすることができる。また、無修飾のプラズモニックナノ粒子でも溶液中の水銀量に対応する色の変化を利用してnMレベルの水銀も無標識で検出できる。ナノ粒子の中でも特に棒状をしたナノロッドは球状ナノ粒子より水銀量に応じたスペクトルシフトが大きく、感度が高くとれる。実際、金ナノロッドを分散した溶液は、分析対象のHg(II)と還元剤のNaBH4を投入すると、生成した水銀が金とアマルガムを形成し、表面プラズモンの縦波成分の最大吸収波長を大きくシフトさせることからHg(II)のnMレベルまでの高感度の検出ができる。金ナノロッドを分散した溶液、ないし金ナノロッドをガラススライド上に固定したものを水銀のセンサーとして開発することの問題点は、サイズにバラツキのある多数個の金ナノロッドを使うために、スペクトル幅が広がり感度、精度の低下をまねくことにある。

Science and Technology of Advanced Materialsにアイルランド、Tyndall National Institute, University College CorkのCarola Schopfらが発表した本論文 Plasmonic detection of mercury via amalgam formation on surface-immobilized single Au nanorodsでは、著者らは多数個の金ナノロッドを使うのではなく、単一の金ナノロッドを使うことを提案している。まず平均サイズ 21(±4)x61(±6)nm、アスペクト比3の金ナノロッドを化学的に合成し、位置決めのための十字線を施したガラススライド上に固定する。図1(a)に概略を示すように、特定の金ナノロッドのHg(II)を含む溶液中での暗視野消光スペクトルを測定し、ブランク測定のピーク位置と対比し、ピークシフトを求める。いくつかの異なる濃度のHg(II)溶液でも同様の測定を行い、ピークシフトとHg(II)濃度の関係をグラフにプロットする。これにより10nMから100nMの範囲のHg(II)に対して、図1(b)に示すようなきれいな直線関係を得ている。このように著者らは、多数個の金ナノロッドを使う場合に比べて、単一の金ナノロッドを用いることではるかに精度よく10nMから100nMの範囲のHg(II)を測定できることを示した。また、他のCd, Pb, Ni, Mn, Cuなどの金属イオンと比較し、Hg(II)に対するピークシフトがこれらより一桁以上大きいことから本手法がHg(II)分析に特異的に有効であることを示した。さらに、実際の河川水、水道水でも共存する他のAl, Fe, Mnなどの影響はあるものの同様の測定が可能であることを示し、本手法の今後の実用化への展望を開いた。一方で、実用化にあたっての問題点もある。合成した金ナノロッドにはサイズのバラツキがあり、図1(b)の直線関係が特定の金ナノロッドに対してのみ有効で、普遍的に使用できる検量線とはならないことを著者らも指摘している。トップダウン型の合成法を開発するなどし、一定サイズの金ナノロッドを提供することが本手法開発の鍵となろう。

図1(a). 金ナノロッドのアマルガム形成を利用した水銀濃度測定法概略図:金ナノロッドの表面プラズモン散乱光(青色線)は、アマルガム形成に伴い短波長側(赤色線)にシフトする。

図1(b). 単一金ナノロッドのHg(II)濃度とピークシフトの直線関係

著者Carola Schopf, Alfonso Martín & Daniela Iacopino
本誌リンクhttp://doi.org/10.1080/14686996.2016.1258293
引用 Sci. Technol. Adv. Mater.18(2017)60.
2017.02.28掲載ARTICLEPublished : 2017.01.09 / DOI : 10.1080/14686996.2016.1258293注目の論文一覧はこちら